日本はなぜ世界で一番クジラを殺すのか
調査捕鯨という言葉を思いついたやつは天才!
- 作者: 星川淳
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/03
- メディア: 新書
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著者はグリーンピース・ジャパン事務局長であるという、実に突っ込みどころたっぷりそうな本である。本当なら、書店の棚で見かけてもスルーするところだが、なぜだか向こう側(捕鯨反対最右翼)の論理も知りたくなった。
結論を言うと、目からウロコが落ちました。もっと正しくは、今まで自分は捕鯨問題について何も知ることもないままになんとなく「捕鯨反対なんてまた狂信的な連中がオカシナこと言っているなぁ」程度に思っていたことを強く反省しました。
- クジラの頭数が増えているかどうかはハッキリしない
- クジラの頭数は明らかに減ってしまっている(単純に100年昔に比べると)
- 南極まで行ってクジラを捕るようになったのはいつからですか?(要するに伝統ってナニよって意味)
- 沿岸でクジラを捕るならいいじゃないか(なぜ沿岸での捕鯨がダメなのか)
- 捕鯨をしたがっているのは誰か
- クジラを食べたい人は誰か
これだけのことを考えるだけで、日本が捕鯨にこだわることの方が疑わしくなってくる。
第一章で「クジラとリンクしちゃったぜ」なんて書いてあるからトンデモさんかと思ってしまったが、そういう妙な記述を無視すれば、実に合理的な思考で書かれた本だとわかるし、彼らの論理も納得のいくものだとわかった。
捕鯨の歴史を紐解くと、昔々の縄文時代くらいからクジラ類を食べていたという歴史に触れることが出来る。江戸時代初頭には、三河・伊勢・志摩・紀州、土佐、長門、肥前、唐津、相模三浦、安房といった今でもクジラで有名な地域で捕鯨が盛んであった。この頃までの捕鯨方法では効率も悪かったのだが、明治期以降、アメリカ式捕鯨、ノルウェー式捕鯨と漁法が進化し捕鯨頭数もうなぎのぼりになる。
実はこの裏には、産業革命による鯨油の需要発生でアメリカ・ヨーロッパの過剰な捕鯨活動の影響があった。油を採るためにクジラを捕っていたのだ。工業化の爆発的発展にともなって機械油が必要になるわけで、その材料としてクジラが一番効率が良かったのだ。江戸日本の開国の原因も捕鯨目的だったわけだし。
で、日本が(だけでなく世界が)南極にクジラを狩りに出掛けるようになったのは1934年から(一番は1905年のノルウェー)ということらしい。公海である南氷洋を舞台に、捕鯨に積極的な国(ノルウェー、ソ連、日本、イギリス、オランダ、南アメリカなどなど)がクジラを捕りまくった。(当時の日本としては、鯨油目的というよりも第一次世界大戦後の物資不足・栄養不足を補うためのタンパク源としての目的が大きかったのかもしれないらしい。)
http://donzokoblue.blog55.fc2.com/blog-entry-21.html
ここまでで十分じゃないかと思いませんか?
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- クジラの肉を食べるか食べないかの議論だけで、反捕鯨に対して強い異議を唱えるのはおかしくないですかと。
- クジラはかつての乱獲によって、確実に数が減っているでしょと。
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さらに、考えなければならないことが残っております。現在、調査捕鯨という名目でクジラを捕獲して肉を市場に流しています。
2ヶ月に一回以下 バンドウイルカ 2週間に一回以下 コビレゴンドウ 1週間に一回以下 キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、メバチマグロ、エッチュウバイガイ、ツチクジラ、マッコウクジラ 1週間に二回以下 キダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ、ヨシキリザメ、イシイルカ
自分自身の反省
捕鯨周辺の状況を、ほんのちょっと整理するだけで反捕鯨に反対する合理的な理由がなくなってしまうような気がする。
これまでは、美味しんぼ的なプロパガンダを真に受けていました。
イルカを見るとかわいいし頭が良いし哺乳類です、だから同種の鯨も象徴的に保護しようとする人達がいるんです。
聖徳太子の時代よりも前からあるのです。: 聖徳太子の日記 聖徳太子ニュース
に対して、「伝統的にクジラを食べる文化が根付いているのだから、外国にとやかく言われたくない。」と言ったとしても、それは目クソ鼻クソのレベルなんですよ。
クジラが繁殖しているお陰で、大衆魚のイワシも最近は捕れなくなってきているし、そのうちイワシも高級魚の仲間入りになるかもよ!
http://korekiyo.exblog.jp/5187048
また、鯨が食べる魚の量はバカにならないということで、その量は全人類が消費する魚の量より多いといわれています。ということなので、そろそろ捕鯨再開をしても良さそうな気がするのですが…(もっとも、捕鯨禁止については、生物保護から政治的な理由に寄るものに移行しているという話ですが)
http://poposan.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_bccb.html
これも大本営発表を真に受けているだけなんだよね。*6
ちょっと考えれば分かるだろ?クジラのせいで魚が減ってるわけねぇーじゃん。200海里経済水域という国際ルールが出来る以前の漁獲量とか考えろよと。世界中が魚を取り出しているから減ってんじゃねぇーかと。
この本の突っ込みどころ
僕の反省を促すに十分な内容ではあったのだが、それでもやっぱりスッキリしないところがある。
- 自然大好き、野生生物は大切にしようぜ。という人が書いた。
- データを著者目線だけで解釈している場面が多々ある。
その辺を割り引いても、自分がこれまでメディアや政府筋が流した情報をそのまま鵜呑みにしていたことを反省させられました。
というわけなので、捕鯨捕鯨ゆうのは一旦休んで冷静になったほうが良いなと思いました。→http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20070427i501.htm
反-反捕鯨運動ととられてしまっても仕方なし
これは、反捕鯨団体に対して一方的に文句を言っているだけで、何の益もない報道(?バラエティー?)になってしまっている。
本当に捕鯨が必要であるかどうかを、捕鯨推進派自身が疑ってかかるという手続きを一度やってみたらどうだろうか?実は、すでに内部でも捕鯨再構築論を議論した結果、やっぱり捕鯨モラトリアムは当然の帰着であると理解してもなを、守らなければならない何かがあるとすれば、自分たちの弱点はそこだということになる。その弱点を隠すために、反-反捕鯨体制を築いているとしたら哀しいことだ。
そして、その最も被害を受けている人は、捕鯨推進派の論にのっかってしまった評論家であり大衆である。
「クジラ、魚食い過ぎ」という情報の流布
捕鯨にしても、「クジラは絶滅の危機だ!!」と主張している反捕鯨団体の方も多いみたいですが、シロナガスクジラなんかは19世紀ごろに欧米人がシロナガスクジラの油を採取するためだけに乱獲したのがそもそもの問題であって、それ以外のクジラの数は逆に増加してイワシなどの魚を沢山食べて一種の「害獣」みたいな感じになっているそうです。他にも、疑似科学的な手法で取り組む人達とかスピリチュアル系の手法で取り組む人達とかもいますが、嘘を嘘だと見抜く力を養って環境問題に取り組むことが大事だと思います。
http://d.hatena.ne.jp/P-CROW/20070328
この説をそのまま受け入れている人が多いみたいだけど、それは危険ですぜ。(↑id:P-CROW:20070328はすごい釣られまくってるなぁー。悲惨だ。)
日本近海では鯨類が多くの魚類を捕食しており、漁業と競合関係にあるのではないかという指摘がいくつかの文献でなされた。とくに、Tamura and Ohsumi(1999)は、鯨類は漁業の数倍の生物量を消費していると考えられるという報告を行い、社会的な関心を呼んだ。しかし、ベーリング海で行われた生態系モデル研究では、鯨類の増加が生態系の歴史的な変動の主要因となるほどの大きなインパクトを与えたとは評価されなかった。鯨類を取巻く環境の正しい評価とともに、鯨類自身の評価もより精確に行う必要性が高まっている。*7
これはドクターの学位論文で、83頁もあるので全部読むのは骨が折れるので未読だが、クジラのような回遊性の高い動物の場合、その総数を把握するのは非常に難しいということだ。これが決定版と呼べるようなモデルも未だないというのが現状のようだ。
したがって、クジラが漁業を脅かすなんて、手放しで信じちゃダメだ。
*1:鯨類資源の研究と管理からの出典と思われる
*2:どれくらいの量を市場に流しているのか具体的な数値が見つけられまへんでした
*3:先月、千葉県千倉に行きました。お土産の「鯨のタレ(鯨肉の干物)」を売っているお店がたくさんありましたが、どこもシナビていました。僕はお土産屋ではなくスーパーマーケットでクジラ赤肉刺身を買って帰りました。美味しかったです。でも、都内のスーパーに置いたところで、他の魚のようには売れないのだろうなぁと思った。
*4:農林水産省水産庁遠洋課捕鯨班の下請けの財団法人日本鯨類研究所の下請けの共同船舶株式会社
*5:南氷洋なら汚染も少ないから安心だぜ。と水産庁は言っている
*6:科研費での環境リスクマネジメント研究で商業捕鯨再開を訴える? ( 自然保護 ) - 英語・ドイツ語翻訳者に転職したドイツ語好きの化学者のメモ - Yahoo!ブログ